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尋牛

井原市立田中美術館 友の会便り 「尋牛」no.39を学芸員さんがラガルトに持って来てくれた。

僕は短い原稿を依頼されて夏に書いていた。
遠い人たちのために、僕の原稿を載せておこう。




「Dando y dando(ダンド イ ダンド)」

1998年、僕がまだ学生だった頃にギャラリーGANへ行った。
当時の銀座界隈では特に高い天井と広い空間で先進国以外の魅力的な作品を展示していた。
過去のカタログが並んだ本棚で1997年に同ギャラリーで開催されたアンヘル・ラミーレス+ベルキス・アヨンの2人展<キューバの新しい波>の図録を見つけた。 今、考えるとこれが僕とアンヘルとの初めての出会いだった。
表紙をめくると中世の騎士と黒い人影が手を差し伸べあっている不定形の絵があった。スペイン語で添えられたタイトル「Dando y dando」の意味は分からなかったが、その版画は印象的で長く僕の心に残るものとなり、10年以上の間カタログはいつも作業場の傍らに置いてあった。

2008年末にキューバを訪れたとき、小さな版木にアンヘル・ラミーレスと彫られた看板が飾ってある扉が少しだけ開いていた。
作品が観れるかも知れないとドキドキしながらノックするとアンヘルの奥さんディアナが迎えてくれた。工房兼ギャラリーになっている部屋の向こうで、作業しているひとりの男がいた。アンヘル・ラミーレス本人だった。ギャラリーを見学したあと、僕は作品集を彼に手渡し帰国した。

翌2009年春に自ら企画したハバナ・ビエンナーレ関連企画展でキューバに作品と共に上陸したとき、今度は僕の作品を気に入ったというアンヘルから「一緒に作品を作ろう」と提案された。そして石版画をハバナで共同制作するという夢のような時間を得ることが出来た。
人生は不思議な出会いと繋がりに満ちている。
なぜならアンヘルと僕との共同制作のプロジェクト名は、いつかの「Dando y dando(=与え合う)」そのものだったからだ。



「尋牛」no.39より
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by ryuzo3net | 2009-10-24 23:01 | アトリエ外活動 | Comments(0)